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けれどわたくしは、それをつらいとも寂しいとも思わなかった。
後宮の怖ろしさを、わたくしはいやというほど見て育ってきたから。
後宮という閉ざされた世界で、ただ一人の男の愛を争い、競い合う大勢の女たち。
帝の愛を自分のもとにとどめておくため、彼女たちは必死だった。
美しく着飾り、自らの住居である局も金に飽かせて飾り立てる。帝をもてなすため、音曲やら詩歌やら、次から次へと趣向を考える。
そのための莫大な費用だって、惜しみはしない。
そうやって帝の寵愛を独り占めにして、男皇子を生みまいらせること。それこそ、彼女たちのたったひとつの勤めなのだから。
だから女たちは必死になる。彼女の身体に、一族すべての命運がかかっているのだ。
男皇子を授かるよう、高名な僧侶に加持祈祷を頼むのはもちろん、身体に良いからと唐渡りの秘薬を服用したり、あるいはおかしな茸やら獣の骨やら、不味さを堪えて必死に口にしたり。逆にそれで食あたりし、身体を壊した女もいるらしい。
あやしげなお守りを持ち歩いたり、わけのわからないお題目を朝から晩まで唱えていたり、不気味な行動をとる女も珍しくない。
それは滑稽で、どこか身体の芯が冷え冷えとするような光景だった。
わたくしはそんな思いなどまっぴらだった。
「ああ、せいせいした」
お父さまと一緒に三条にあるこざっぱりした別邸に移り住み、わたくしは心からそう思った。
後宮へ上がらなかった内親王は、結婚もせず、まるで尼のようにひっそりと生涯を終えるのがならわし。
でも、後宮で妬み妬まれしながら生きていくより、お父さまと一緒に念仏三昧していたほうがずっとましだもの。
わたくしはまるで子供で、そんなことを本気で考えていた。
後宮では、自分が男皇子を生むための努力はもちろん、競争相手に男児が生まれないよう、こっそりと祈祷を頼む者もあとをたたない。
そして、自分よりも先に幸運を掴んだ者を呪詛する女も。
呪詛は国家の大罪。露見すればたとえ中宮、女御といえども、厳罰はまぬがれない。
けれど。
「大きな声では申し上げられませんけどね、姫さま」
ことさら深刻そうな顔を作って、小侍従はわたくしの耳元でささやいたものだ。
「かの源氏の君の母上さま、先の桐壺更衣さまも、呪詛によって殺されたのだとか」
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