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しかも参内したあとでさえ、後宮で源氏の君と密会し続けていたというじゃない。
そのうわさを教えてくれた小侍従は、物語のような派手やかな二人の恋に胸躍らせているようだったけれど。
でもわたくしは、許せない。
なんでお父さまは、こんなふしだらな女をおそばに召しておくのかしら。
この女を通して右大臣家の支援を必要としていた在位中ならともかく、帝位を降りて政争からも身を引いた、「過去の人」になった今になっても。
「院さまがご出家されましたら、わたくしはいったいどうすれば良いのでしょう。すぐにお後を追って出家したのでは、『朱雀院は仏の道にまで女をお連れになった』と、世の人々が誹りましょうし……」
もっともらしい理屈をつけて、朧月夜はしらじらしく空涙までこぼしてみせるけれど。
後宮育ちのわたくしは、こんな嘘泣きなんかにはだまされない。
わたくしが冷たく見据えたままなので、朧月夜もやがてばかばかしくなったのか、嘘泣きも止めてしまった。
「情(じょう)のない姫宮さまですこと。まだお心も幼くて、優しい気配りとか思いやりとか、よくおわかりにならないのかしら」
この女の言う「情」が、嘘泣きで男に媚びることなら、わたくしはそんなもの、一生理解したいとも思わない。
「いやです、お父さま。わたくしは降嫁などしたくありません。たとえ源氏の君のもとであっても!」
「わがままをおっしゃってはなりません、女三の宮さま。これはもう、お父君さまのお決めになられたことなのですよ」
お父さまより先に、朧月夜が言った。
それからようやく、お父さまが迷いを隠しきれない様子で口を開く。
「そうなのだ、紗沙。源氏の君と交わした約束を、もはや取り消すことはできぬ」
その言葉に、わたくしは妙にひっかかるものを感じた。
もともとお父さまはものごとをはきはきおっしゃる性質(たち)ではなかったけれど、この時はいつにもまして口ごもりがちで、まるでご自分の言葉にご自分で納得がいかない、といった様子だった。
その疑問を解き明かしてくれたのは、またも小侍従のおしゃべりだった。
「ええ、紗沙さま。わたしは最初から最後まで、ぜーんぶ聞いておりましたもの!」
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