第1章

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 姫さまがお独り身を通されるにしろ、いっそ尼になってしまわれるにしろ、どなたかがしっかりと経済的な援助をしてさしあげる必要がありますもの。内親王の尼宮のといったところで、雲やかすみを食べて生きていけるわけじゃないんですから。  ふつうならそういうことは、まず母方の実家を頼りにするのでしょう。けれど紗沙さまには、お父上さまよりほかに頼れる方がいらっしゃらないのです。  異母兄の東宮さまにお願いするという手もありますが、やはり腹違いというのはいろいろ問題もありますし。  あちらのお母上さま、承香殿(しょうきょうでん)母后さまも、先(せん)の弘徽殿母后さまほどではございませんが、朱雀院さまがご偏愛される紗沙さまに良い感情はお持ちになってないでしょ。  その上東宮さまときたら、もう明石女御さまに鼻毛を抜かれっ放し、女御さまのお尻の下でぺっちゃんこ……あ、あら、おほほほ。な、なんでもございませんわ。  ともかく、朱雀院さまは姫さまの経済的な後見を、源氏の大臣にお願いされるつもりだったようですわ。 「どうか、哀れな孤児を一人引き取ってやるくらいのつもりで、あの姫の面倒を見てくれないだろうか」  ええ、そのくらい、源氏の君にはたやすいはずです。  源氏の君は、お母君さまから譲られた二条のお邸のほかに、かつての恋人、六条御息所の遺産である六条の広大な地所も受け継がれて、そこへ唐天竺にも例のないような、豪奢な大邸宅を建てられました。  しかもそこに、最愛の妻である紫の上さま、明石女御のご生母である明石の君さま、ご子息夕霧中納言の母代わりをつとめる花散里さまなど、片手にあまる女君を集め、住まわせておられるのですから。  秋好中宮だって、源氏の君の養女として、冷泉帝のもとへご入内されたのですわ。  ほかにも、今は髭黒(ひげくろ)大将の北の方になられた玉鬘(たまかずら)の姫君。あの方だって、本当は太政大臣――そのかみの頭中将の娘でしたのを、源氏の君が養女としてお引き取りになられたのです。  この上、紗沙姫さまお一人くらい、どうしてお世話できないことがありましょう。  わたしははっきりと聞きました。 「あの幼い姫を、あなたの手元で養育して欲しい。そして一人前になったなら、良い婿を探してもらいたいのだ」  朱雀院さまが、そうおっしゃるのを。
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