第1章

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 その想いを、朱雀院さまもご存知だったはずですわ。  太政大臣家では、母方の叔母にあたる朧月夜尚侍を通じて、姫さまのご降嫁を願い出られていたそうですから。――ええ、これも尚侍付きの女房から聞きました。  源氏の君だって、知らないはずはありません。内親王降嫁となれば、内裏の勢力地図にもかかわる一大事ですもの。  どんなに隠していたって、必ず情報は流れます。それこそ、わたしみたいな女房の口から、ね。  なのに源氏の君は、まるでそ知らぬ顔をなさっていましたわ。 「大事な姫宮を思慮の浅い軽輩者に託すのは、いかがなものかと思いますが」  なんて、おっしゃったんです。  分別くさく、おっさんぶって――あ、あら、いえ……えーと、いかにも思慮深いご老人のようなお顔をなさって、 「亡き桐壺院さまの御代に比べ、今はどうも、世の者どもが軽佻浮薄に流れているような気がしてなりません。今どきの若い者にまかせては、内親王にふさわしくない軽々しい扱いをされ、女三の宮さまのお名にも傷がついてしまうのではありませんか?」  ……ですって。  ご子息夕霧さまをも含めた「イマドキの若いの全般」って感じで、お話しになってはいましたけど。 「兄宮さまも今は東宮にお立ちになり、お忙しいことでしょう。女三の宮さまお一人のことに、お手間をとらせてはなりません。やはり姫宮さまのためにも、しっかりした者を選ばねば」  そしてまた、朱雀院さまがお気の弱いことに、 「そうか……。そうだね、あなたの言うとおりかもしれない」  なんて、簡単に丸め込まれちゃって!  子供のころからずっと源氏の君と比較され、負け続けてきたせいか、源氏の君には絶対勝てないって妙な刷り込みでもできてしまわれてるんじゃないでしょうか? 「では一体、誰に女三の宮を託せば良いのだろう。まったく親ばかな話だが、あの子のことが気がかりで、このままでは出家の決意すら鈍ってしまいそうなのだ……」 「院がご心配になるのも当然です。いっそ私のもとへいらしてくだされば、姫宮さまも、お父上とご一緒の時と同じようにお思いになられ、安心なさるのではないでしょうか」  ……え? 「で、では、源氏の院よ、あなたが……!?」 「他に誰もおらぬのでは、もはや私がご辞退申し上げるのもご無礼でございましょう」  源氏の君は静かに、へりくだって頭を下げられました。  でも……でも!!
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