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「朧月夜尚侍あたりのお見立てかな。しかし、少し仰々しいようだ。これでは、まるで衣に埋もれているようではないか。あなたの手がどこにあるかもわからない」
帳を降ろし、閉ざされた御帳台の中で、源氏の君は無造作にわたくしの手をつかみ、袖から手を差し入れてきた。
まるで人形遊びのように、わたくしの衣を剥いでいく。
そしてそれは、あっけないほど簡単に済んでしまった。
わたくしが育った後宮は、閉ざされた性の花園だ。
帝の寵愛を乞う女御、更衣たちは言うに及ばず、それに仕える女房たちのもとへも、夜ごとに公達たちが忍んでくる。
寝殿造りの建物の一つ一つの棟は、言ってみれば主人の部屋を長大な廊下で囲んであるようなもの。自分の局が持てない下級女房たちは、主人の部屋に付属する廊下のような廂(ひさし)の間を、几帳と呼ばれる衝立や屏風や、唐櫃(からびつ)という収納家具で仕切って使う。
夜の秘め事だってほとんど筒抜けになってしまう。それはもう、お互い様としか言いようがない。
男たちも、それを知っていて、堂々と忍んでくる。
有力な女御に仕える女房を自分の恋人にすることは、男にとってきわめて大きな出世の糸口になるからだ。
高貴な女御や更衣の耳に貴公子たちの評判を吹き込むのは、おそば仕えの女房たちしかいない。そうやってまず帝の妻妾に自分を売り込んでもらい、今度はそこからその女御の後見をする有力者や、あるいは帝その人へ、自分の噂を流してもらう。
そのために彼らはせっせと女房たちを口説き落とし、その寝間へ通うのだ。
小侍従のところへだって、彼女がまだ一人前の女房になる前の女童のころから、色っぽい恋歌や付け文などがたくさん届いていた。
それも、内親王の乳母子という小侍従の立場を利用したいという、男たちの欲得ずく。もちろん彼らは、はしっこくて生き生きした、水面に跳ねる鮎みたいな小侍従に、魅力を感じてもいるのだろうけど。
そして小侍従もまた、いっぱしの女房みたいにその恋文や言い寄る男たちを上手にあしらい、気に入った者はちゃんと自分の恋人にしてしまっていた。
もちろんわたくしは、そういったことは可能な限り眼に触れないよう育てられてきた。けれど後宮に満ちる淫靡な空気を完全に遮断するのは無理なこと。
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