第1章

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 寝間の中で何が行われるのか、男と女が睦み合うというのはどういうことなのか、わたくしは誰に聞かされるともなく、薄々理解していた。  もちろん降嫁の前には、乳母がもったいぶって、 「男君がなにをなさっても、驚いたり声をあげたりしてはなりません。ただじっと、男君のなすがままになっておられれば良いのです。そうすれば、あとは男君がすべてよろしいようにしてくださいます」  なんて、回りくどくててんで的はずれの解説もしたけれど。わたくしはあまりにもばかばかしくて、笑う気にもなれなかった。  そして源氏の君のしたことも、わたくしが想像していた手順を裏切るようなものではなかった。  きっとこんな感じ、と、おぼろげながら想像していたとおりに物事はすすみ、淡々と終わった。  痛みがある、とは聞かされていたし、実際、覚悟していたとおりの苦痛を感じた。  身体の芯をさらに奥へ、奥へと無理に引っ張られるような痛み。引きつれるようなその苦痛は、今まで体験したこともないひどく異質なものだった。  初めて男の眼に裸体をさらす羞恥、あられもない姿勢をとらされる屈辱を、感じないわけではなかったけれど。けれどそれらもあっという間に終わってしまい、ふと気づけば、え、こんなものなの……?と、なかば茫然と御帳台の天井を見上げているわたくしがいた。  くちづけさえ、何の印象も残らなかった。  源氏の君も、わたくしがその行為に戸惑いや恐怖を覚えるひまがないように、手早くことを済ませてしまおうと思ったのかもしれない。慣れない相手をなだめすかし、ごまかし、あるいは力ずくで従わせながら抱くのは、面倒だったのだろう。  もちろん、我が身で体験してみて初めて知り、驚いたこともあったけれど。  たとえば、初めて触れた男の肌の、思いがけない熱さ、硬さ。  わたくしよりずっと年上の源氏の君の肌は、少しざらりとして、乾いている。けれどその奥にはひどく硬い、はりつめたものがある。  男の身体がこんなふうに強く、けして撓(たわ)まないものだと、初めて知った。  ふくらみかけたばかりの乳房を包む、大きな手のひら。自分でいたずらに触れてみた時とは、まったく違う感触。男とは、こんなふうに指の先まで硬いものかと思った。
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