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その同情には、自分の立場を優位に見せようとするところなど、微塵も見受けられなかった。
十歳の頃から源氏の君のものとなっていた彼女は、わたくしのように、男たちの取引の道具にされたことはないだろう。
けれど今、わたくしの降嫁によって、自分の立場を圧迫されている。
たとえよその女に源氏の君の子供が生まれ、自分は我が子を生むことができなくても、それでも彼女の立場は揺るがなかった。源氏の君の、最愛の妻。彼の人生におけるもっとも重要な存在。誰も、彼女自身もその立場を疑いはしなかっただろう。
そんな彼女にとって、わたくしの降嫁は青天の霹靂だったに違いない。
実情は単なる貢ぎ物の受け渡しにすぎなくても、外から見ればわたくしは正三品内親王、この六条院でもっとも高貴な身分の女君ということになる。
連れ添う時の長さも、愛情の深さも、この身分の差の前には何の意味も持たない。
――しかたありませんのよ。
哀しげな微笑みがそうささやいているように、わたくしには思えた。
――同じですわね、わたくしたちは。ともに、男の勝手な都合で振り回されて。
――困ったものでしょう? 彼らはみな、わたくしたち女には意思も魂もないとでも思っているのでしょうかしら?
それは、自嘲してかろうじて保つ心の平穏、諦めにも似た苦悩だった。
感情のままに仏頂面をしてしまい、あるいは思いきり他人を睨み、顔を背けてしまうわたくしには、まだ、この透き通るような静かな笑みを浮かべることなんて、無理。
この女性は、この笑みを手に入れるまで、いったいどれほど懊悩し、一人のたうち回ったんだろう。
けれどその笑みは、どこかに病みやつれたような疲弊と陰を引きずっていた。
紫の上に同情されるのは、わたくしはいやだとは思わなかった。そして彼女もまた、わたくしが抱いた彼女への同情に気がついただろう。
この女性に憎まれていないのは、嬉しいと思ったけれど。
「東の対の女(ひと)と、仲良くしてくださったそうだね」
夕暮れになってわたくしの居間を訪れ、源氏の君はにこやかにそう言った。
「あの人も、細かいことにはこだわらないおおらかな人だ。あなたとは血縁もあるし、姉妹のように思ってやってください」
何もかも自分の思い通りになっていると一人うなずく源氏の君が、その表情が一番許せないと、わたくしは思った。
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