第1章

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 視線はわたくしの顔をひたと見つめたきり、揺るがない。  その眼は暗闇の中でもきらきらと光り、まるでそこに彼の命がすべて凝って火を噴いているかのようだった。  柏木が見つめるほほが、熱い。その視線に灼かれて、今にもじゅっ、と音をたてて燃えてしまいそう。  その視線はやがて、わたくしの喉元から胸、さらにその下へとゆっくりと降りていく。  柏木にまるで舐めつくすように見つめられ、ようやくわたくしは、今、自分がどんな恰好でいるのかを思い出した。  直衣姿の柏木にくらべ、わたくしは夜着がわりの薄い単衣(ひとえ)一枚きり。眠っていたのだから、当然といえば当然だけど。  白い薄い絹は、かすかな寝汗に少ししっとりと湿って、わたくしの身体にぴたりと貼り付いていた。まるでもう一枚の皮膚のように。  蒼い小さな胸のふくらみも、その頂のぽつんとした桜色の尖りも、そして腰から脚へのまろみ、そこにひそむわずかな陰りも、何も隠してはくれない。  それを、柏木はひとつひとつ、まるでその視線で自分の名前をわたくしの身体に刻印しようとするみたいに、じっと見つめているのだった。  こんな男の眼を見るのは、生まれて初めてだった。  本当なら、こんな無礼をけして許してはいけない。  わたくしは尊き皇統の血をひく姫宮なのだから。  柏木は貴族の御曹司に過ぎない。廟堂の実力者、太政大臣の長男とはいえ、臣は臣。わたくしに手を触れることは許されない。  いいえ、何よりもわたくしは、すでに夫ある身なのだから。  そう、わたくしの真実の名を知っているのは、お父さまともうひとり。わたくしの夫。  柏木は他者の妻に、こともあろうにその夫の邸宅で、密通しようとしている。  こんなことは、けして許されない。  露見すれば柏木もわたくしも、ただではすまない。柏木は命すら危うくなるかもしれないのに。  それほど罪深いことをしようとしていながら、柏木は怯える様子すらなかった。 「紗沙。可愛い人」  まるでこうするのが当然だと言わんばかりに、わたくしの髪を離そうとしない。  指にからめ、口にふくみ、もてあそぶ。そのさまをわたくしに見せつける。  黒髪にからむ指先がわずかに動くたび、わたくしの芯にさざなみが走る。髪の先などではなく、まるでこの肌に直接、柏木の指が触れ、淫らに愛撫されているかのように。  ……ああ。音がする。
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