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わたくしの身体の芯で、今、なにかが音をたてて火を噴いた。
彼の瞳を、まっすぐに見つめる。
わたくしの視線を受け止めて、柏木も同じように感じているかしら?
じゅっ、と熱い音をたてて、身体の芯から燃え出すものを感じているかしら。
――ええ、そうです。
声もなく、柏木がうなずいたような気がした。
絡み合った視線は、一寸たりとも逸らさないまま。
――あなたを抱くのは、私だ。
――こうしてあなたを愛し、いだき、身悶えさせ、その身体に余すところなく、己の名を刻印する。そうできる男は、私一人だ。
言葉など、いらなかった。
こうなることは、わかっていた。
あの時――わたくしの白い唐猫(からねこ)が、鈴を鳴らしながら局(つぼね)の外へ飛び出してしまった時。
小さな猫のいたずらで、不意に巻き上げられてしまった御簾(みす)。
蒸し暑い晩春の午後のこと、風をさえぎる几帳も乱雑に部屋の隅へ寄せられて、その向こうには、爛漫と咲き乱れる桜樹(さくらぎ)と、まばゆい陽射しとがあふれていた。
わたくしは生まれてからずっと、ほの暗い後宮で育った。
お父さまは、世に朱雀帝と呼ばれる方。
あおによしと詠われた寧良(なら)の古都から、平安の京の地へ都が移って、もう数十年。
四方に守りの四獣神を戴き、国家の役所である大内裏を中心に碁盤の目のように整備された都には、かつてない繁栄とみやびなる王朝文化が花開いていた。
それを支えていたのは、大貴族の藤原一門。
後宮の奥深くで、世俗のことから切り離されて育ったわたくしでも、そのくらいは知っている。
藤原一門の長は、代々の帝のもとへ娘たちを送り込み、皇子を生ませた。生まれた皇子たちは藤原の権力によって養育され、成人した暁には父よりも母の血筋を重く感じるようになる。そしてはれて帝となれば、母方の祖父や伯父、係累たちを次々と廟堂の重鎮に据える。
そうやって藤原氏は、この国の政治中枢に深く深く食い込んできた。
帝の血筋、皇統はあくまで表の飾り物。裏からがっちりとこの国を抱え込み、内裏を動かしてきたのは、藤原一門なのだった。
現在は太い藤の蔓は幾つもの家系に枝分かれし、同じ藤原氏の中で権力闘争が繰り返されるようになっていた。
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