第1章

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「廟堂でも、もはや夕霧さまのご意見に異を唱える方はいらっしゃらないそうですわ」  小侍従がまたも情報を聞き込んできた。 「夕霧さまのご意見は源氏の君のご意見、ひいては主上のご意見も同じですもの。反対しても無駄だって思われるのでしょうね。それにまた夕霧さまが、古今東西の有職故実、法令や慣例に良く通じてらっしゃるそうで。議論になったら、やかまし屋の長老がたでさえ太刀打ちできないそうですわ」 「まあ……」  ちょっと意外だった。夕霧とは直接口をきいたこともないけれど、小侍従や柏木から聞かされた話では、彼はいかにも坊ちゃん育ちのおっとりとした性格で、表だって人と争うことを好まないように思えていたから。 「お若いですけど、内裏では人一倍苦労されていらしたからでしょうね。なにせ、六位の文章生から這い上がった方ですもの。親の七光りでいきなり高位高官に着かれた方々とは、肝の座り方が違いますんでしょ」  とにかく、彼や源氏の君が六条院に居るあいだは、わたくしはおとなしくしているしかない。  わたくしに仕える女房たちですら、人手が足りないと、東や西の対へ駆り出されることすらある。  源氏の君は時々、思い出したようにわたくしの居る母屋へ顔を出す。ほんのご機嫌伺いで、一刻ととどまることはないのだが。それでもいつも前触れもなく、突然やって来るものだから、こちらはいつ源氏の君が来るかと気を抜くことができない。  もちろん、柏木もわたくしを訪れることなどできない。  彼からの手紙すらも間遠になってしまった。  文を取り次いでくれていた弁の君が、わたくしたちの関係が源氏の君に露見したと知って、すっかり怯えてしまい、これまでどおり手紙を運ぶのを嫌がっているらしい。ようやくわたくしの手元に文が届く時には、三、四通まとまっていたりする。小侍従がやかましくせっついてくれなければ、柏木の文は弁の君の手元で全部握りつぶされてしまったかもしれない。  柏木に逢えない。文もろくにもらえないなんて。  最後に逢った夜の柏木の様子が気になってしかたがない。あの時、柏木はまるでなにかに追いつめられているみたいだった。
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