第1章

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 わたしもちょっとお休みよ。西の対にいたのでは気ぜわしくて落ち着かないから、お白湯を一杯いただくあいだだけ、こちらに居させてちょうだいね。ああ、どっこいしょっと。  あなたもたいへんね。今は西の対に人手が割かれているから、その分、姫宮さまのお世話はあなた一人でなさってるのでしょう?  中宮さまの御所からだって、だいぶ女手を出しましたもの。わたしはそのとりまとめ。ええ、お産の手伝いには慣れてますからね。秋好さまがお生まれになられた時も、わたくしは六条御息所さまのおそばに控えておりましたもの。  本当は秋好さまのお子さまも、わたしが取り上げてさしあげたいと願っておりましたけれど……。  ええ、お子さまに恵まれなくたって、秋好さまと主上さまは、とても仲むつまじくお過ごしでらっしゃいますよ。琴瑟相和すというのはまさにこのことと、いつもうらやましく拝見しておりますわ。  たとえお子さまがなくたって、秋好さまの権勢は揺るぎないものですわ。  自慢するわけじゃあ、ありませんけどね。ほかの女御さまがたは、もう永(なが)のお暇(いとま)をいただきたいと思ってらっしゃるんじゃないかしらねえ。  お若い弘徽殿女御さまは冷泉さまのご元服と同時に入内された方ですし、姫宮さまをお産みあそばしてるから、そこまで肩身の狭い思いはなさっていないでしょうけど、もうお一方(ひとかた)、王女御さまは、ねえ……。  お優しい冷泉さまも、あのお方にはなぜかひどく冷淡で。後宮ではほとんど忘れ去られたも同然の方ですわ。  ――下手に王女御さまのことを思い出したりしたら、源氏の君が怖ろしゅうございますもの。  え? どうして源氏の君が王女御さまをそこまで目の敵になさるのか、ですって? あらまあ小侍従さん、ご存知ないんですか?  王女御さまのお父君は、式部卿宮さま。ええ、こちらの紫の上のお父君でもいらっしゃいますわね。  ですが式部卿宮は、源氏の君が須磨に落ちられた時、娘である紫の上に一切の援助をなさらなかったんですよ。都に一人お残りになった紫の上は、どれほど心細い思いをされましたでしょう。ほかの女君に仕えるわたしでさえお気の毒に思ってましたのに、実の父である式部卿宮は、経済的な面倒を見るどころか、お見舞いの手紙ひとつ送られなかったとか。  源氏の君は、その時のお恨みをけしてお忘れにならないのですよ。
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