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宿下がりした女御や更衣に、帝が逢いに行くことはできない。そもそも、帝が内裏の外に出る時は、それはすべて行幸(みゆき)、公の行事になってしまう。帝は私事で内裏の外に出ることはできないのだ。
だから藤壺母后が宿下がりのあいだに身ごもったとすれば、それは――。
「冷泉さまは、桐壺帝のお子ではないというの……!?」
そんなうわさのつきまとう皇子が、東宮に立てるはずがない。ましてや、帝に即位など。
宮中の人々が誰一人として、この生まれ月のずれを指摘しないなんてこと、あるわけがないのに。
「ですからわたし、朱雀院さまのところから帰る途中、何人かの女房のところを回ってみたんです。その当時、内裏に出仕していた人を探して。そうしたら――」
小侍従は小さく首を横に振った。
「冷泉さまがお生まれになった当初は、そんなうわさもたしかにあったそうですわ。ですけど、すぐに立ち消えになったそうです」
「どうして!?」
「まず第一に、冷泉さまと桐壺さまのお顔立ちが似ていらしたこと。うり二つってほどじゃありませんが、お二人が並ぶと、ああ、たしかに血のつながりがあるなってくらいには、似てらしたそうです」
「そう――」
わたくしは亡き桐壺帝の顔を知らないから、何とも言いようがないのだけど。
「それにもう一つ。桐壺さまは、冷泉さまをたいそうお可愛がりになってたそうですわ」
小侍従はさらに声をひそめた。
「もしも本当に藤壺母后さまが宿下がりのあいだに不義密通をされたのなら、夫である桐壺帝が不義の子を抱かされて、おわかりにならないはずはありませんわ。なのに桐壺さまは、そんなそぶりは微塵も見せなかった。ほかのお子がたと変わりなく、いいえ、それ以上に、冷泉さまをいつくしまれて……。だから宮中の人々もみな、やはり冷泉さまは桐壺さまのお子だろうと信じたのだそうです」
「じゃあ……生まれ月がずれた理由は?」
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