第1章

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 夕霧大将、そして源氏の君は、なにがなんでも柏木の殿が六条院以外の場所で、試楽の夜よりあとに亡くなられたことになさりたいのでしょう。このような不自然な亡くなり方をお知りになれば、太政大臣さまは必ず、愛するご長男の死の謎を暴こうとなさるでしょうから。  世間をあざむくための秘密を押しつけるには、わたしどものような人手の少ない、後ろ盾のない女所帯がもっとも手頃だと、源氏の君と夕霧大将はお考えになられたのでしょう。  まさにお二人の思惑どおりです。御息所さまは床につかれたまま、女二の宮さまも声もお出しになれないほど怯えきっていらっしゃいます。あまりにもお気の毒で、おそばにお仕えするわたしどもですら、もう見ていることができません。  本音を申しますと、わたしは女三の宮さまをお恨み申しあげておりました。  女二の宮さまも、うすうすご存知だったのです。お妹君と柏木の殿のことを。  女二の宮さまは、以前よりおっしゃっておいででした。夫婦として柏木の殿と向かい合っていても、時々、殿のお心がここにないのがわかってしまう、と。  柏木の殿がかつて女三の宮さまのご降嫁を熱望されていたことは、周知の事実です。女三の宮さまが源氏の君に降嫁されてすぐに女二の宮さまをめとられたことを合わせて思えば、柏木の殿のお心に誰が棲んでいるのか、おのずと知れるというものでしょう。  それでも今は、女三の宮さま以外におすがりできる方がおりません。  女三の宮さまよりお返事がいただけないことは承知しております。もしもお手紙をいただけたとしても、今の状況ではそれは、わたしどもの手に届く前に夕霧大将に見つかってしまい、破棄されてしまうでしょうから。  けれど、もしもいつか、このことについて自由にお話になれる時が来ましたならば、その時にはどうか、わたしどもにもお教えください。あの夜の、すべての真実を。  お願い申し上げます。このままでは柏木の殿が、そして女二の宮さまがあまりにもおかわいそうです。  これより文を、出入りの商人に託します。さすがに殿方の出入りのない台盤所は、監視の目も行き届かないのです。  今はただ、この手紙が無事に小侍従さまのお手元に届くことだけを、祈っております。どうぞみなさまに、み仏のご加護がございますように――。
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