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「どうして、欲しいと望んだ女(ひと)には子供が恵まれず、望んでもいない人の腹に子供ができるのだろうか」
と、言ったらしい。
おそらくそれが、彼の本心だろう。
望まない子供の誕生を、源氏の君がただ指をくわえて待つだろうか。
西の対の女房たちがどこまで知っているのか、源氏の君から何を命じられているか、わからない。
けれど周囲の人間たちすべてが、わたくしを見張っているように思える。小侍従以外の者すべてに疑いの目を向けざるを得ないのだ。
負けるものか。
この子を無事に出産するためなら、わたくしは何だってできる。
わたくしはそっと小侍従を招き寄せ、小声でささやいた。
「ねえ小侍従。お父さまのところへ行ってきてほしいの」
「え? 朱雀院さまのところへでございますか?」
「ええ。聞いてきてほしいことがあるのよ」
そう、お父さまならきっと知っているはず。かつてささやかれたという、冷泉さまについてのうわさを。
手紙で問い合わせるわけにはいかない。お父さまからの手紙は、源氏の君もすべて目を通す。そしてどんな返事を書けば良いかまで、わたくしに指示をする。
わたくしはあたりさわりのない時候の挨拶を文にしたため、小侍従に持たせた。
小侍従は衣装をととのえると、緊張を押し隠し、六条院を出ていった。
じりじりしながら待ち続けること、半日。
日が暮れる頃になってようやく、小侍従は戻ってきた。
「ああ、気分が悪い。お願い、わたくしを一人にしてちょうだい」
具合が悪いふりをして、女房たちを追い払う。
「大丈夫でございますか、紗沙さま。気をしっかりお持ちあそばして!」
小侍従はかいがいしくわたくしの世話をするふりをしながら、御帳台のそばへ近寄った。
そして。
「うかがってまいりました」
声をひそめ、小侍従はささやいた。
周囲を気遣い、少しでも物音が聞こえると、お互いすぐに口を閉ざす。そんなことを神経質に続けながら、わたくしは小侍従の報告を聞いた。
「朱雀院さまははっきり覚えていらっしゃいましたわ。――冷泉さまは、ご誕生が予定より一月半も遅れたのだそうです」
「一月半!?」
「ええ。出産のご予定は十二月の末だったのに、お生まれになったのは二月十日。その当時から、いったいどんな怖ろしい怨霊の仕業かと、かなりうわさになったそうですわ」
「そんな、ばかな……」
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