第1章

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銀河回廊(仮) 1   旅は単調そのものだった。  太陽系から目的地まで外部時間で24年。船内時間で16ヶ月。もっとも古い星間植民地(ルビ:スターコロニー)、バーナード星系4番惑星〈ノイエスラント〉への旅は、亜光速で恒星間宇宙を渡る〈アルトマルク〉に乗り込んだルクス・フレーゼにとって実り多いものではない。時間が有り余っていると言えば聞こえはいいかもしれないが、星間巡航輸送船である〈アルトマルク〉の設計に、その余暇を楽しむための無駄な(遊びの)空間などあるはずもなかった。旅のほとんどは、積み荷と同じように停滞棺(ルビ:ステイシスベッド)の中で過ごし、A?ブレイン《ルビ:拡張頭脳》にインストールした幾つかの啓蒙教育システムで睡眠学習を受けながら時の流れに身を任せていた。それでも、1人しかいない船員として定期的なシステムチェックや、不意のトラブルへの対応、地球やノイエスラントへの定期通信などの仕事をこなさなくてはならず、荷物と同じように「寝て、起きたら別の世界」というわけにはいかなかった。  ルクスの眠る停滞棺(ルビ:ステイシスベッド)のある狭い部屋から繋がった艦橋で、定期通信を終えた彼女は、船内システムに自動診断プログラムを走らせている間、この単調な旅が誰のせいなのか、その記憶から導こうという無駄なあがきを開始した。  アインシュタインの相対性理論が悪いのか、ローレンツの重力方程式が悪いのか。とにかくこの宇宙には光よりも速い存在はなく、質量を持った存在はその高みに達することはできない。増大する質量だけが問題じゃない。超光速運動は、情報の過去、あるいは見かけ上の未来への送信を意味しており、それは因果律の破綻を導くパラドックスそのものでしかない。ということは、マックスウェルの方程式の解から先進波を打ち消してしまったホイーラーとファインマンのせいなのか。  答えは見つけることができなかった。自然科学者たちや数学者たちは、もともとこの世界に備わる法則や方程式を見つけ出しただけだ。強いて言うなら、彼らの見つけ出した理論のせいで人類は長い宇宙航行を実現したのだから、ルクスの退屈は彼らのせいだと言ってもいいかもしれないが、あまりに理不尽すぎるようにも思える。
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