第1章

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 次五朗は刃物を躊躇いなく刺して来た……。 と、思いきや、散々振り回して体力を激しく消耗したのかバランスを崩してその場に倒れた。  「笑い上戸の性能、笑う門には福来るの交換です」  ソムリエがカウンターの奥で呟いた。 要するに、笑えば笑う程体内の呪詛が消滅して運もアップするって訳か。  「何故だ。何時もはこうじゃないのに」  「よし、この儘留めだ。超接近戦モード。絡み上戸セット!」  俺は関節技が使えるようになり、蛸のように相手に絡み付く絡み上戸にガジェットチェンジする。これから繰り出される強力なチョークスリーパーからは誰も逃げられない……筈。  「じゃないよこれ。うおおおん!」  急激にガジェットチェンジを間違えた自分が情けなくなって来た俺は、瞳から大量の涙が溢れ出した。 これは。絡み上戸じゃない。泣き上戸だ。  「うわああん、うわああん、ごめんよ次五朗。デコピンしてごめんよ」  どうしてだろう。デコピンした事や鼻を摘んだ事。ズボンを下ろした事を謝りたくなって来た。  「マスター。ガジェット間違えてごめんよ」  もう全てに対して謝りたい。  「ソムリエ。何時も駄目出ししてごめんよ。看板娘。二股かけてごめんよ。視聴者の皆さん、こんな展開でごめんよ。うわああん!」  「……何か戦う気失せるんだが。ま、次は正々堂々とやろうな。呑太郎」  優しい次五朗の言葉に泣き上戸が相手の戦意を喪失させる交換がある事なんてどうでもよくなって来た。 もう今夜は倒れるまで泣き倒したい。
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