妹と僕の森

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 まだ日も暮れぬというのに、森は不気味なほど暗い。そしてどこからか怪しげな鳥の鳴き声が聞こえた。僕は妹を抱きかかえ、その森を進み歩いていた。持ち物は肩にかけた革の鞄だけだ。僕の腕の中で、今日はどこまで行くの、と妹が言うので、もう少しだよ、と僕は返した。そうすると、妹は少しだけ笑ってくれた。それから少し歩いた所に小さな小屋があったので、僕らはそこで休むことにした。  小屋の中は薄暗くあまり綺麗ではなかった。小さな窓が二つとベッドが一つ、天井には蝋燭の入ったランプが吊るされている。部屋の隅に毛布が畳まれてあったので僕は一先ず安心した。すぐに妹をベッドの上に寝かし、毛布をかけてやった。ランプを手に取り、僕は蝋燭に火を灯した。  僕がベットの傍に腰を下ろし、自分の足を擦っていると、大丈夫、と妹は心配そうに言った。僕は、大丈夫だ、と答えたが、歩き続けた足は限界に近づいていた。その時、毛布の中から一匹のオレンジ色をした蛾が飛び出し、ヒラヒラとどこかへ舞っていった。それを見た僕は小さなため息を吐いた。  あの蛾は小屋の毛布に潜んでいたものではない。  妹の体に巣食う蟲なのだ。  「傷、見せてみろ」  僕がそう言うと妹は、嫌よ、と一言で返して、毛布に潜ってしまった。  「どこから出た」  右のフトモモの内側、と妹は潜りながら答えた。  何年か前から、妹の体から蟲が出るようになった。その原因は今でも分からない。  蟲は妹の肉を喰らい、皮を裂いて飛び出す。その瞬間を何度か見たことがあった。妹は痛くないよ、と言っていたが、傷口から血が流れ出る様子が痛々しかったのを今でも鮮明に覚えている。  僕は鞄からガーゼを取り出し、毛布の中の妹に手渡した。毛布の中でガサガサと動き終えると、妹はひょっこりと顔を出した。お腹を空かしているだろうと思い、鞄からチーズとパンを取り出すと、妹は嬉しそうに微笑んだ。そんな妹の表情に僕も笑顔になった。小屋にあった薪で火を焚き串に刺したチーズを溶かし、それをパンに塗ったものを妹に食べさせてやった。妹は、美味しい、と言って食べてくれたが、パンは硬く、チーズも古いものだった。それでも美味しいと言ってくれる妹の笑顔に僕は胸を痛めた。
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