妹と僕の森

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 妹の肌は透き通るような白さで、髪までも白くなっている。それを美しいと言う人もいたが、これは蟲のせいだという。蟲は妹の体を喰らい成長する。その結果、栄養不足となった妹は白く弱っていくのだと、医者が言っていた。妹の背中には、縫合された大きな切り傷がある。これは昔、医者が妹の体に巣食う蟲を取り除こうとした時に出来たものだった。しかし、一番大きな幼虫が妹の脊髄と一つになっていたため、それは叶わなかった。結局、大きな傷だけが残ってしまった。  窓の外を眺めると、太陽も沈み、静かに虫の鳴く夜が来た。  妹が退屈そうにしていたので、僕は紙とクレヨンを何本か鞄から出した。それを見た妹はとても嬉しそうな顔をさせた。そして二人で絵を描き始めた。夜になると、僕らはよく絵を描いて過ごした。これは家を出る前も同じだった。  突然、妹が手を休め、僕を見た。  「きっと、私、もうすぐ死ぬわ」  僕は凍りついたように動けなくなった。妹が僕をじっと見つめている。唾を飲むのがやっとだった。それでも僕は口を開いた。  「そんなことないさ。この森を越えれば、街に出る。そこのお医者さんなら、きっと治してくれるはずだ」  「いいえ、きっと間に合わないわ。蟲が私の体から出る時はね、動いているのが分かるの。だから、もうすぐだって事も分かるの」  結局、何も答えられなくなった。僕が絵を描く時は、いつも妹の絵だった。こうやって描く事で妹が存在した証を残したかったからだ。  見て、と言って妹は右腕の袖を捲った。その腕は所々に穴が開き、血の染みたガーゼや布が詰められている。僕は見ているのも辛かった。  「この傷みたいに私の体も醜くなってしまうの。私、それを見られるのが嫌だわ」  そう言って妹は袖を直した。何も言えないのが嫌で、僕は妹から目を背けそうになる。でも、それはしなかった。僕は妹を抱きしめた。泣いてるの、と妹に言われ、僕は頬を伝う涙に気付いた。何も答えない僕に、妹は寄り添うように体を預けてくれた。  ごめんなさい、と囁くように聞こえた。妹の体は冷たかったが、決して温かくないわけではない。  「でも私は消えてしまうわけじゃないわ」  妹は僕から少し離れ、僕の手を取ると、自分の胸に当てさせた。胸の奥で何かが蠢くのを感じる。その何かの正体を僕は最初から知っていたはずだった。  「私は消えるんじゃなくて、蛾になるの」
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