ネクタイ

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父のお葬式が終わった。小雨の降るなかでひっそりと行われた式。 母と2人で父の特等席であった縁側のベンチに腰を掛け庭を眺める。 丁寧に手入れされた黄色のパンジー。花に溜まった水を流すため少し下を向いている。 「お父さんがいなくなってさみしのかな?」 私は冗談交じりに言った。 「そうかもね。お父さん大事に育ててたもの」 母さんは弱々しく笑いながら愛おしそうに花を眺める。 この庭はきれいではあるが、いささかおかしい所がある。 「パンジーっていろんな色があるのになんで黄色一色にしたの?ジョウロも花壇も黄色だし、変だよね」 そう ウチの庭は黄色だけで構成されているのだ。 「ふふ、ほんと変よね。そういえば、あんた黄色嫌いだから、本気で怒ったことあったわよね」 あれは私が高校生の時だった。その日は卒業式で私の晴れ舞台、お父さんとお母さんにも折角だからおしゃれな格好をして欲しかった。 だから、母さんにはブローチ、お父さんには新しいネクタイをプレゼントした。 母さんは喜んでブローチをつけて私に見せたが、お父さんはというと何十年も使ってくたびれた黄色のネクタイをするといってきかなかった。 プレゼントを蔑ろにされたことと、反抗期のイライラが重なってお父さんを怒鳴り散らしその後はまともに話をすることもなくなり、今日という日を迎えたのだ。 「いま思うと私は子供すぎたのかもね」 「そうね。でも、あれは父さんも悪いのよ」 「え、どういうこと?」 「じつはね…」 それから母さんは私の知らないお父さんを日が暮れるまで話してくれた。 ネクタイ事件の真相も… それは私の産まれた日まで遡る。 私は逆子だったらしく、難産を余儀無くされたとのこと。 母さんはもちろん不安だったが、それ以上にお父さんの心配がそれを上回った。 お父さんは病室でいろんな願掛けを調べては実践し、また調べては実践。 その時見つけたのが、私の誕生日のラッキーカラー黄色だ。 それから仕事の時は決まって黄色のネクタイを締め、私が無事産まれることを願った。 そのおかげか私は無事産まれることとなり、お父さんは効果を確信したのかそれから何十年も毎日毎日黄色のネクタイを締め、私の幸福を祈り続けたのだ。 日も暮れたので、部屋に入り父さんを見るとふと気付いた。 「そのネクタイしてくれたんだ…」
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