九章 街を歩く

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  「魔方陣大百科事典の初版……!?」  それは世界に僅か十冊しか存在しない本であった。しかもそのうち四冊は火事にあったり水害にあったりしたため完全に破損したことが確認されている。つまり残り六冊が世界のどこかにあることになる。  一冊は世界政府組織の本部に。また一冊は中央の国王城内の神殿に。さらにまた一冊は南の国の大富豪の邸宅に。  どこにあるのかわかっているのはこの三冊のみ。そしてリューティスはこの本を手にしたことがない。  なぜなら厳重に保管されているがために、リューティスの立場でも読む許可を得るのに五年はかかるから、である。  この本が厳重保管されている理由。それは魔人族を含む様々な人型種族の魔法や人間族の禁忌魔法ですら事細かに解説がなされている書物だからである。  そして一番の問題は、この本が魔方陣事典であることだ。つまり、寸分の狂いもなく魔方陣専用の紙とインクを使って本に描かれている魔方陣を描き写せば、誰でもその魔法を発動させることができてしまうのである。たとえそれが禁忌とされている魔法であっても。  他種族の魔法や禁忌指定の魔法が記されているのは初版の十冊のみであり、第二版からは一般的な魔法についてのみが書かれている。  どこの図書館にも置いてある有名な書物であるが、当たり前であるがそれは第二版以降のものの話。しかし、ここにあるのはあろうことか初版である。第二版以降の書物には題名の後ろに何版であるか記されているのだが、この本にはない。そして、第二版以降、年々厚みを増しているとはいえ、こんなに厚いのは初版だけである。 .
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