44900人が本棚に入れています
本棚に追加
/1716ページ
我に返ったらしい男に手を離してもらい、エールの代金を店主に支払って一杯を彼に差し出すと、彼は慌てて金を取り出したがそれは手で制する。
「お気になさらないでください。これはただ僕が貴方と飲みたくて頼んだだけですから」
「い、いや、だけどなぁ」
「それからこちらを」
男のために購入した腸詰め肉をパンで挟んだものを差し出すと、男は呆けた顔をして受け取った。
「へ?」
「お並びになっていたのに買っていらっしゃらなかったので……。こちら方がいいですか?」
野菜炒めを挟んだものを差し出そうとすると男は慌てて首を横に振った。
「腸詰め肉の方がいい……ってそういう問題じゃなねぇよ、代金」
「貴方が買いそびれた原因の一端は僕にもありますから」
パンを受け取った男はリューティスの言葉でぴしりと固まった。そしてテーブルに突っ伏す。
「うああぁあぁぁあぁ……」
男はそのまま呻き声らしき奇声を力なく上げた。
「マヤちゃん参加しないっていってたじゃねぇかぁ……。他に男いたのかよぅ……」
どうすべきかわからぬリューティスはとりあえず男の呻き混じりの呟きをエールを飲みながら聞いていたのだった。
.
最初のコメントを投稿しよう!