六十八章 南へ向かって

8/16
前へ
/1716ページ
次へ
  「お疲れさん」 「お疲れさま」  シルウィがリューティスのすぐ隣に腰を下ろす。少年たちも近くに座った。  パンの切れ込みにチーズと干肉を挟むと、指先に魔法で火を灯し、パンの表面を炙った。 「……器用だな」 「そう?」  チーズがほどよくとけたところでかぶりつく。パンがフードにあたりそうになり、空いている左手でフードを脱いだ。涼しい風が首筋にこもっていた熱を冷やす。  無言で食べ進めていると何やら視線を感じて目をあげた。少年たちの中で一番年長だといっていたツェンと目が合う。  彼はすぐに目をそらした。その耳が赤い。首をかしげてシルウィを見ると、彼女は笑っていた。 「美人で驚いただろ」 「お、女だったのかよ!」  リューティスは手を止めた。なぜこうも自分は性別を間違えられるのだろうか。  思わずため息を吐き出して項垂れた。シルウィがけらけらと笑う声が聞こえる。 「リュースは男だぞ」 「……っは?」 「あたしも最初は迷ったけどな。冒険者仲間が宿の男湯で見たっていってて、耳を疑ったわ」  つまり、彼女にも間違えられかけていたということだ。 「お、男……? こんなに美人なのに……?」 「嘘でしょっ? 俺のかーちゃんより美人だよ!?」  ネルとストラの呟きに言い返す気力もなく、ため息を呑み込んでパンにかぶりついた。 .
/1716ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44982人が本棚に入れています
本棚に追加