六十八章 南へ向かって

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  「そもそもなぜ旅をしている!? あんたなら引く手あまたで仕事に困らないだろ? よく見れば“月の光”所属だしな!」  中央の国の首都に帰れば仕事は山ほどある。ギルド“月の光”本部にはリューティスの自室もあり、寝泊まりも可能だ。  だが、旅に出なければならない理由も、旅をしたい理由もあり、リューティスはあの場所から旅立った。 「……旅がしたかったんだ」  ふわりと笑みを浮かべる。リューティスは狭い世界で生きてきた。元ギルドマスターの命で学園に通うまでは、戦場しか知らなかった。  常に辺りを警戒し、武器は手放せず、交わす会話に温かみはない。リューティスの顔すら知らぬ者たちを従えて、敵を殺めることでどうにか生き延びてきた。  学園に通い、初めて目にした平和な世界は、リューティスにとって衝撃的な光景だった。 「あんた、変わってるな」  呆れ顔のシルウィに誤魔化すように首をかしげて笑った。  休憩を終え、一行は再び南へと進んでいく。殿を進むリューティスは周囲の魔力を探り、魔物の様子を探る。今のところ、接近してくる個体はない。  馬の背にまたがり揺られながら、額から垂れた汗を拭った。──暑い。西の国はそろそろ夏を迎える。日に日に気温が上がっているのを感じていたが、今日は特に暑い。  広い草原には日差しを遮るものはなく、容赦ない日光が降り注いでいる。  氷属性を得意とするリューティスは暑さに弱く、夏場は普段から暑さを緩和する魔法具を身に付けていた。しかし、今、その魔法具は“ボックス”の中だ。  魔力が安定し、制御が完全なものとなったお陰で、リューティスは今魔封具をつけていない。その魔法具を外した際に一緒に暑さを緩和する魔法具を外してしまっていたのだ。  馬をとめ、“ボックス”から魔法具をとりだし、すぐに左腕に巻く。身体にこもっていた嫌な熱がすっと消えていくのを感じた。 .
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