六十八章 南へ向かって

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   再び馬を歩かせ、わずかに空いてしまった荷馬車との距離を詰めた。  商人たちも暑いのだろう。リューティスのすぐ前にある荷馬車の御者台に座った商人は、服の胸元をつまんでぱたぱたとあおっていた。  何度か休憩を挟みながら進み、夕暮れ前に一行は足を止めた。すぐに天幕の用意をし、焚き火をする。  昼間、汗ばむほど暑かったが、まだ夜は涼しい。リューティスにとっては心地よい気温であっても、他の者にとってはそうではない。 「少し見回りをしてくるよ」 「あぁ、頼んだ」  商人が夕食の用意をするのを手伝っていたシルウィに一声かけ、野営地を離れた。  野営地の周囲を見て回り、危険がないかを確認する。自分一人ならばここまで丁寧に見て回ったりはせず、魔力を広げて近くに魔物がいないかを確認し、結界を張って終わりにするのだが、周囲に人がいるとなるとそうはいかない。  魔物の侵入を防ぐ結界魔法というのは、気軽に一晩中維持できるものではない。魔方陣を利用すれば魔力さえ足りれば可能であるが、一晩維持しようとすればそこらの魔法師一人分の魔力を消費することになる。魔力の回復する早さは人それぞれであるが、使いきった魔力を一晩で回復しきる者など見たこともなければ聞いたこともない。  雨風を防ぐ程度の結界ならば一般的な魔法師でも一晩中維持するのは難しくないが、魔物の侵入防止結界となるとそうはいかないのだ。  つまり、人目がある今、一晩中魔物侵入防止結界を維持しておくのは、避けたいのである。  こうしてわざわざ周囲の探索をおこなっているのは、護衛につく他の冒険者も、護衛対象である商人も、リューティスが魔力や気配に敏感であることを知らないからだ。彼らに安心感を与えるために、あえてわざわざ見て回っているのである。 .
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