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例えば治癒魔法師は魔物の討伐に不向きである。しかしその際に出た怪我人の治療を受け持ち、パーティー全体に寄与している。この時、もし個人個人の討伐数のみで実績を評価した場合、治癒魔法師の評価は最低のものになってしまうのだ。
当たり前であるが、ランクに一定以上開きがある場合、パーティーメンバー一人一人が平等に評価されることはない。しかし、何らかの形で役に立っていれば評価はされるのである。
リューティスは魔法師であり、また剣士でもある。リューティスとしてはパーティーを組む利点はないが、盾を操り守備に特化したレイガンには必要なことであろう。彼は敵を倒すことより仲間を守ることが仕事であり、個別評価で見れば討伐数は当然ながら少なくなってしまうはずだ。
“黒龍の翼”に足を踏み入れる。このギルドは“月の光”には似ても似つかない。事務的なやり取りを好むあのギルドの受付にはない温かみがあるのである。
訪れた者は皆身内のように扱われている。柔らかく声をかけられ、親しげに会話を振られるのだ。まだそれに慣れぬリューティスは、声をかけられてもぎこちない対応しかできない。
「お、おはよーさん。今日も依頼か?」
話しかけてきたのは顔見知りの男である。相手はリューティスの名前を知っているが、こちらは彼の名前を知らない。
「……おはようございます。今日は待ち合わせで……」
「珍しい。誰とだ?」
「レイガンさんです」
「あいつか。まだ今日は見てないな」
Aランクであるレイガンは、この街にいる時間が長いためかもしくは強いからかわからないが、冒険者の間では名前が知られている──ということを今朝宿の女将が話していた。
彼もまた、レイガンを知っているようである。
「待ち合わせってことはあいつと組むのか?」
「……はい、そのつもりです」
「ランク的にもつり合うしな……。ナナリー様とは組まないのか?」
「長期間縛られるわけにはいかないのですよ」
「せっかくの誘いなのに」
そうは口にしつつも彼には全く呆れた様子はない。
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