九章 街を歩く

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  「坊主はどこで育ったんだ?」  不意に聞かれた問いに浮かんだ答えは、一番長い時間を過ごしてきた首都であった。だが、リューティスの想い出のある地は首都ではなく、短い時間しかいられなかった東の国にある小さな村である。 「……生まれは東の国の近くで、小さい頃少しの間東の国にいて……、そのあと首都に移った」 「じゃあ西に来るのは初めてなんか?」 「……ううん、西の国に行ったことはあるし、この辺りも何度か来たことがあるよ」  へぇ、と呟いた彼に眉尻を下げた。──自分がただ足を運んだだけだったことが今になってよくわかる。仕事で転移魔法を使用してこの辺りまで来たことは一度や二度ばかりではない。だが、こうして宿泊して料理を口にし街を見て回ったことはなかった。  忙しかったということもあるが、あの頃は足を運んだ場所を観光するだけの精神的な余裕もなかったのであろう。  自分のことであるにも関わらず、推測することしかできない。あの頃、何を思い何をしようとしていたのか、今一思い出せないのだ。  何をしていたのかは覚えている。ここで遂行したいくつもの依頼の内容も鮮明に思い出せるし、その際に起こったできごとも記憶にある。だが、その時の自分の心を思い出せないだけだ。 「観光じゃなくて、か?」  来たことはあるといいながら知らぬ料理についての説明を聞いていたリューティスに、レイガンがぶつけた疑問。  リューティスはまだ十六歳であり、レイガンには仕事で来たことがあるのだという考えは浮かばなかったのだろう。 「……うん」  あえて何も口にせずただ肯定したリューティスに彼の目が一瞬細められた気がした。 .
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