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しかし彼は深く詮索することもせず、話題は移ろいゆく。他愛もない雑談をしながら昼食を取ると、そのあと彼は本屋まで案内してくれた。
「本好きなのかー?」
「……うん」
地面すれすれからリューティスの背よりも高い高さにまで、棚一面に詰め込まれた古い書物たち。本屋特有の匂いが薄く漂い、さらにはどこか薄暗い店内であるが、そこがまた好きなのである。
適当に分類された本を眺めてみたものの、分類が大雑把であり低い机に積み重ねられている本もあるため、自力で探すのは大変である。
奥のカウンターで分厚い眼鏡をかけて本に目を落としていた老年の店主に声をかけた。
「すみません」
「…………はい?」
「魔方陣に関する書はどこにありますか?」
「…………まほーじん? …………ああ、魔方陣ね、はい」
大分間をあけて返ってきた返答に眉尻を下げつつ問い掛ける。再び返ってきた答えものんびりとしたもので、リューティスは小さく苦笑を漏らした。
随分と小さな椅子から立ち上がった店主は壁に立て掛けてあった杖を手にカウンターから出て来て、曲がった腰に手を当ててゆっくりと歩く。
そのあとについて店の一番奥へと進んだ。店主が立ち止まったのは背表紙を読んだかぎり魔法についての書物を置いてある一画のようだった。店主はそこから一冊の分厚い本を抜き出す。
筋力の衰えた細い腕では支えきれないようで、ふらつきかけたところに慌てて手を伸ばして本を受け取った。その本の厚さはリューティスの拳二つ分はある。擦りきれた背表紙からは本の題名が読み取れなかったが、表紙に書かれたその題にリューティスは目を見張った。
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