九十八章 観光

7/9
44901人が本棚に入れています
本棚に追加
/1716ページ
  『まだついてきますね。路地に入ってみましょうか?』 『それも一つの手かもしれん』  すなわち、自らの身を囮にして釣ってみる、というのだ。 『問題はアンソニーだな』  彼はまだ、後をつけてきている男の存在に気がついていない。もし気がつけば帯びている剣を抜き放とうとするだろう。 『どうなさいますか?』 『巻き込んでしまえばいいか。サキカ、頼む』 『わかりました』  ガイアが何を自分に任せようとしているのか、リューティスはすぐに悟って内心で苦笑した。もちろん、表情には出さなかったが。 「ガイア、あそこの店、寄ってもいい?」  リューティスは路地にある小さな古書屋を指差した。 「本屋か。相変わらずだな」  リューティスの本好きは昔からで、幼馴染みでもある彼はそれをよく知っている。ガイアは演技ではない笑みを小さく浮かべた。 「今はどんな本を読んでいるんだ?」 「この間は魔物の地方名が記されている本を買ってね──」  会話をしながら、路地に足を踏み入れる。 『動いたか?』 『動き始めましたね』  そして、口で話しているとは異なる内容を、念話で伝え会う。 「面白そうだな。あとで貸してくれ」 「うん」  男の気配が徐々に近づいてくる。 .
/1716ページ

最初のコメントを投稿しよう!