序章

2/3
前へ
/1716ページ
次へ
   巨狼が地を駆ける。その速さは馬の数十倍。前に立てば長身の男でも見上げる位置に背があった。  巨狼を駆るリューティスが向かう先は西。目指すは魔導機と芸術の西の国だ。  ダダンと呼ばれている中央の国のやや西にある大きな村までは、旅の出発地である首都から徒歩と馬と馬車で移動してきたが、今は巨大な狼の背の上。同行者と別れたことに付け加え、中央の国のダダンから西は街や村が少ない。そして通りかかる者も少ない。街道をわずかにそれただけでここ半月誰とも出くわしていないほどだ。  リューティスの乗る巨狼は皇狼──またの名をプラチナウルフといい、最上級上位に属する魔物である。一目見てそれと気づく者は稀であり上級魔物である銀狼──シルバーウルフと見間違える者が多いが、どちらにせよ目撃されれば注目されるのが当然。人目の多い場所で騎獣する気は起きなかった。  歩けば数ヶ月から一年数ヶ月かかる距離を半月に縮め、気がつけばあと数日で辺境都市に到着する。皇狼──セネルという名であるが、彼の足はとても速い。皇狼種の中でも随一の俊足だ。  とりあえずの目的地である辺境都市カナンは、西部辺境の中で最も大きな街である。首都には大きく及ばない規模であるが、旅途中寄ったギルド都市よりも更に巨大だ。  日が暮れてもセネルは走り続け、真夜中と呼ばれる時間帯を前にようやく立ち止まった。彼は夜目が利き、付け加えその迫力から近寄ってくる魔物のほとんどない。夜間起き出す強い魔物も彼からすれば取るに足りない相手であり、蹴れば即死である。 .
/1716ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45003人が本棚に入れています
本棚に追加