十六章 討伐せよ

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   これは転移魔法を使えということなのだろうか。それとも使い魔であるセネル──皇狼の背に乗れということなのだろうか。  空を飛ぶという手もあるが、それならば馬の方がいい。どうせ乗るのも飛ぶのも森に入るまでのこと。森に入れば木を伝って駆けた方がはやい。群れは森にいて、その森までの距離程度では馬で駆けても空を飛んでもそう時間は変わらぬのだ。ならばわざわざ目立つ必要はない。  転移魔法を使用するのかセネルに乗るのか、どちらにせよ、マスターは何を考えて馬が不要だと告げたのかその真意が読めない。  転移魔法は難易度の高い魔法だ。魔方陣を描き利用して発動させても、その魔方陣の複雑さから目立つ。  また、転移魔法を使える魔法師となるとパーティー勧誘が後をたたなくなるのが目に見えている。移動が楽になるのだから当然である。治癒魔法で既に脅迫紛いの勧誘を受けているのだ、できるかぎり使いたくない。  ここに至るまでの旅路で一度だけ大勢の人の前で使用しているが、それは目で見てとらえられる地点への転移という簡単な転移だったからである。  今回の場合、目的地は馬で二十分も離れた森の中だ。これが延々と広がる草原の真ん中であったなら話が別であるが、森の中への転移は上手く転移先を指定しなければ木々という障害物を避けきれず、最悪の場合転移後存在を保つことができず身体が木っ端微塵に碎け散る可能性もある。  リューティスは迷うことなく念話をマスターに繋げた。念話とは補助魔法の一種であり、声に出さずに会話をすることのできる手段である。遠く離れた人物とも会話が可能であるが、その人物との何らかの繋がりがなければ伝わらない。  熟練の魔法師の念話での会話は一瞬で、周囲に気がつかれることはまずないが、盗聴する手が存在しているのも確かである。手早く済ませた方がいい。 『──マスター、俺です』 『っ!? はいっ、何でしょうか!』  緊張のこもった念話が即座に返ってきた。 『なぜ馬が要らないとおっしゃったのですか?』  率直に疑問を投げるとギルド“月の光”マスターからは困惑した様子がなんとなく伝わってきた。 .
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