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『貴方様には足がいるではありませんか』
『セネルですか?』
『えぇ、彼に乗ってカナンまで移動したのでしょう?』
リューティスは理解した。彼は誤解しているのだ。リューティスが堂々とセネルに乗ってこの街まで来たのだと。
なぜ誤解されたのかわからないが、そう思われていたのならセネルに乗らず馬を用意させるのはおかしなことであると考えるのが当たり前だろう。なんせ、セネルの足は馬より遥かにはやいのだから。
『……セネルは人前に出していませんよ』
『えっ!?』
あちら側の気配が慌ただしくなった。誤解に気がつき、慌てて撤回をしているのだろうか。
「僕は移動手段を持っていませんよ。……何か誤解でも生じているのかもしれません」
「ですよねー」
受付嬢は困ったように首をかしげた。間延びした言葉は彼女の中で生じていた困惑が解消されたからかもしれない。
「では馬を用意いたします。……街一の駿馬を連れて参りますのでできるかぎり急いでください」
「……わかりました」
街一の駿馬とわざわざ口にするということは、余程丁寧に育て上げ大切に使われている馬なのだろうとわかる。それを他ギルドの所属者であるリューティスに貸すために連れてくる──ギルドが今回の件をどれ程重く見ているのか見てとれた。
受付嬢が足早に受付の奥へと消えていく。手続きに忙しいのか、ギルドの職員は皆、慌ただしく動き回っていた。
「緊急討伐依頼に参加なさる方はこちらへ!」
受付で一人の男性が声を張り上げた。集まっていた冒険者たちが一斉に動き出す。リューティスもその流れに逆らわず、できあがりつつある列の最後尾へとついた。
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