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リューティスの移動のために連れてこられた馬は、均整の取れた身体を持つ青毛の牡馬であった。首都にいる愛馬とどこか似た雰囲気を持つ彼に懐かしさを覚えながら、その首を撫でる。
「……重いかもしれませんが、よろしくお願いします」
力強い嘶きが返ってきた。向けられた漆黒の瞳をじっと見つめ返す。
彼は魔力を持つ馬型の魔物である。中央の国軍で騎士の相方として働いている馬も彼と同じ種の馬だ。一般的な馬より世話が大変であり気難しい性格の馬が多い種であるが、足が速く体力もあり身体が大きい。
彼は鼻を鳴らした。どうやら乗ることは認めてもらえたようで何よりである。
「失礼します」
声をかけてからその背にまたがる。見送りに来ていた受付嬢が唖然としてリューティスを見上げていた。何かおかしいのかと自身の身体を見回すが、変わった点はない。
「……どうかなさいましたか?」
「い、いえ、何でもありません。いってらっしゃいませ」
受付嬢に頭を下げてから、リューティスは馬を歩かせた。徐々に速さを上げさせて思わず口元を緩める。久々に馬上で感じる風は心地いい。
受付嬢から伝えられていた通り、門前に並ぶ人々を追い抜いて馬を降りてから門番に声をかける。
「すみません」
「何かご用で──っ!?」
リューティスを振り向いた門番は、フードを外したリューティスにいいかけた言葉を呑み込み敬礼した。
「緊急討伐ですね? 頑張ってください!」
「ありがとうございます」
話が通っているとは聞いていたが、ギルドガードの提示すら求められずに通されたのは意外だった。それだけ顔も覚えられているのだ。
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