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白銀の巨狼の背から飛び降りて空を見上げる。満天の星空には二つの月が並んでいた。──双子月だ。
月は一つだ。しかし、時折このように月が二つ見える日がある。月の持つ光属性の魔力が原因であると言われているが、詳しいことは不明である。ただし、双子月の日は光属性魔法の効果が増加することで知られており、光属性になんらかの関係があることは確かなようである。
『──寂しいのか』
わずかにからかいを含んだ声色が脳内に響く。セネルからの念話に、リューティスは淡い笑みを浮かべた。
「……さあ、どうでしょうね」
つい十数日前まで隣にあった二つの気配は、今はもう遠くにいる。いつかまた会うこともあるだろう。しかし、それはいつのことになるのだろうか。
『素直ではあらぬな、そなたは』
自分からは程遠い言葉に苦笑して、その場に座り込み“ボックス”から取り出した出来合いの料理を夕食として口にする。セネルはその巨体を背後に寝そべらせ、ふかふかの尾をリューティスの腹部に回した。
セネルの体毛は細く柔らかい。触り心地は最高である。夕食を食べ終えるとその尾を撫でつつ彼の腹部に背を預ける。毛布が要らぬほど暖かな寝床だ。
『誰かと関わるのは面倒であるが楽しかろう。……また旅仲間を作れ』
「……えぇ」
二人の旅仲間との旅は楽しくあっという間だった。宿で寝るとき以外、常に誰かの声を聞いていた気がする。目を閉じれば彼らの顔がはっきりと思い出せた。
『別れがあれば出会いもある。それが道理』
「……そう、ですね」
──向かうは西、辺境都市カナン。
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