十九章 別れ

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   その日はぐずついた天気だった。空は灰色に濁り、今にも雨が降りだしそうだった。  しかし、水属性持ちのリューティスは今日はひどい雨にならないことを知っている。今日は昼から小雨になるはずだ。そして今日の夜から明日の朝にかけて豪雨になる。  目の前に立っているベインの瞳もまた、曇っていた。雨の予感を感じさせる薄い緑色は、どこか恋人の髪色を彷彿させる。 「最後に手合わせしてやる。下行くぞ」  出立の準備を終え宿を引き払ったリューティスたちは、ギルド“黒龍の翼”に訪れていた。行く先をギルドに伝え、手紙等が送られてきた時に自分のもとへ届きやすくするためである。 「っ……うん!」  唇を噛み締めたベインは大きくうなずくと俯いた。  手続きをしてから地下訓練施設へと下りる。レイガンもベインも無言だった。リューティスもまた無言だった。訓練場にたどりついたところで、ようやくレイガンが口を開く。 「向こうあいてんな」  しかし、レイガンが口にしたのはただそれだけ。先を歩くレイガンに、普段彼の隣を歩いていたはずのベインが彼の後に続く。 「──構えろ」  ベインは何も言わずに剣を抜き放って構えた。初めて剣を握った時とは全く異なり、腰を落とす様もレイガンに向けられた瞳も、実に様になっていた。  あの時より彼は随分と肉付きがよくなった。痩けていた頬も膨らみを取り戻しつつある。 .
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