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夕飯後、日が暮れて村が暗闇に包まれはじめた頃、リューティスとレイガンはオウルの家を出た。
「いつも借りてる家がな、こっちにあるんだ」
いつも、ということは、彼は頻繁にこの村を訪れているのだろう。
「あぁ、あれだ」
彼が指でさしたのは小さな石造りの家である。空き家といっていたが手入れはしているのだろう、古くはあるが汚くはない。
レイガンの後に続いて家の中に踏みいる。無論、カナンの街で寝泊まりしていた宿の一室とはことなり魔方陣の気配はない。火属性初級魔法を詠唱破棄し、家の中を照らす。
「助かる。寝台があるのはこっちだ」
レイガンが玄関と直接繋がった居間と台所が一つになった部屋の隅にある扉を開けると、その向こうに寝台が三つ並んでいた。
そのうちの一つに腰を下ろし、小さく息を吐き出す。身体は疲れていないが、精神的に疲れているのかもしれない。何かあったわけではないのだが、心の奥底で何かが燻っている気がした。
「疲れてるのか? 珍しい」
そんな様子を見抜かれたようで苦笑する。
「どうだろう……。何か疲れることをした記憶はないんだけどね」
「なら体調が悪いのか?」
どこか心配げな彼に首を振った。
「身体は大丈夫」
旅に慣れたリューティスが二日間歩いた程度で体調を崩すはずがない。
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