二十三章 越境

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   服についた染みはすぐにならば清め魔法を用いることにより完全に落とすことが可能であるが、中級魔法である清め魔法を使える農民は多くない。清め魔法を使えれば大抵の初級魔法も使え、つまるところ畑仕事以外のもっと収入のいい仕事にも就けるのだ。  貴族や裕福な家では、ついた染みをわざわざ魔法を用いて落としてまで着ようと思う者は少ない。染みを落とすならば新しく購入した方が早いからである。  古着として売られる頃には清め魔法では落ちない染みとなっていることが多く、結果として染め直しが行われ、古着は濃い色に染め直される。シミがない服は染め直されずそのまま売られるが、シミのない服を買った裕福な平民がさらに着古した物を一般的な平民が買っているため、シミのない服は少なく、濃い色の服を着ている者が多くなるのである。  とはいえ、例外はある。例えば『黒い』服である。黒に近い服は安い。大抵が染め直された古着であるからだ。黒に近い染料は安価で、着古された末に最終的に使用される染料という認識が強い。  しかし、黒は別である。限りなく黒い色に染めるための染料はとても高価なのだ。リューティスの服も褐色まじりの黒ではなく、『黒』である。とはいえ、日の下では並べて見比べなければ分かりにくい程度の違いであり、一目見て真っ黒だと気がつくのは目利きの商人くらいだろう。 .
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