二十三章 越境

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   あの学園は名門であり、貴族の子弟が多かったのも原因のひとつであるのかもしれない。農民の子であれば、貧しい村では靴を履けない子も多く、服も兄妹のお下がりばかりである。そんな農民の子ばかりが通う学校であったら、身だしなみに気を遣わない者も少なからずいたにちがいない。 「お前一応思春期だろ? 服装ももう少し洒落たモン買やいいのに」  思春期とは自分とは無縁な表現である。たしかに身体の成長はしたが、中身の成長が伴っていないように思えるのだ。 「……服は持ってないわけじゃないよ。でも着る機会もないから」  育ての親は服装をあまり気にしないリューティスによく衣類を買い与えてくれた。場違いな格好をすることはないが、興味を持てないものに時間をかけられるほどリューティスには暇な時間がなかっただけである。  高価なそれらの服はほとんど全て“ボックス”の中に仕舞いこんである。今着ている服も育ての親が誂えたものであり、実はとても高価なものだ。  この服と同じ形で細部の刺繍だけが異なる服を何着か持っており、旅に出てから着回しているが解れることもくたびれることもない。  リューティスがこの服を着ているのは、ただ単純に汚れが目立たないから、である。 .
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