292人が本棚に入れています
本棚に追加
「ええ、そうですの。美春さんは普段からちょっとぼんやりさんで。わたくしがあれこれと面倒をみてさしあげているのですわ。今日は社交界を少しお勉強して頂こうと」
「そうでしたか。……あなたが披露してくださるのもバイオリンですか?」
淑子さまの肩越しに、彼が私に優しい視線を投げかけた。
私がピアノを弾く事は承知のくせに。
「私は……ピアノ、です」
その言葉に、彼が空々しく目を輝かせる。
「ピアノとバイオリンの合奏ですか、それは素敵だ。早く聞かせてもらえま……」
「全くだ。どうでもいい話が長すぎる」
突然、京さんの表と裏の声が、私の前後から同時に聞こえた。
「しかも、長いわりに肝心な事はなにも紹介されないしな。コラ座敷わらし、お前の名前は?」
「……………………」
裏の声は、私の真後ろから現実的に響いてくる。しかも目の前の京さんは、苦笑いをしているものの、口はつぐんだまま。
なにより、私を座敷わらしと呼ぶという事は……?
思い切って後ろを振り返った私の目の前には、やっぱり京さんの姿が。
でもこの京さんは、最初にあった時の彼だ。ちょっと意地悪そうな、それでいてどこか人懐こい笑い方。
最初のコメントを投稿しよう!