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「え……え? あれ? ええっ!?」
ソファに座っている京さんと私の目の前に立っている京さん。
隣りでは淑子さまが私と同じような呆けた顔で、ソファと背後を何度も見比べている。
すると目の前の京さんは私と淑子さまの間をすり抜けて、ソファの小笠原伯爵の隣にドカッと腰を下ろした。
「遅いではないか。今までどこで油を売っていた」
伯爵が笑いを含んだ声色でたしなめる。
「屋敷で寝ていたんですよ。連日、派手な夜会に駆り出されてこちらはもうグッタリです」
彼がおどけたように肩をすくめると、伯爵はその肩に手を置いて立ちあがった。
「お集まりの皆さん、少しよろしいか」
お茶会のフロアに、押出しの良いバリトンが響き渡る。するとざわついていた部屋の中に、一瞬にして静寂が降りた。
「もう一人、不肖の息子を紹介しよう。こちらは了(りょう)。京と似てはいるが双子ではなく、弟だ。理由あって親戚筋の家に養子に出していたんだが、この度当家に戻ることになった」
私の手から、薄い楽譜が滑り落ちる。
そっくりの顔をした兄弟は、父親である伯爵を挟んでソファから立ちあがり、客人たちに向かって背筋を伸ばした。
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