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「小笠原 了と申します。みなさま以後、見知りおき下さい」
「これからは弟と共に、父を支えて参ります。ご指導の程、宜しくお願い致します」
そして二人、揃ってニッコリ。
並べて見ると、似てはいるがその笑い方からしてやっぱり二人は全くの別人だ。
それぞれの笑顔に、フロアは歓迎の拍手と娘たちの嬌声に溢れた。
「小笠原家にご子息がふたりいらした……? しかも……!」
うわごとのようにつぶやく淑子さまは、どこか興奮した様子で鼻の穴を膨らませている。
私とて、あまりの予想外な出来事に心臓がドキドキと鳴りっぱなしなのに、どうやらそんな事に了さんは構ってくれそうにない。
「さあ、俺は先に名乗ったぞ。お前の名前は?」
まだフロア中がこちらに注目しているのに、了さんは真っ直ぐ私にそんな質問をしてくる。
「し、四条、美春……です」
「みはる? 美しく晴れる、か?」
「い、いえ、美しい春です」
「ふうん……」
ニヤリとまた独特の笑い方をして、了さんは腕を組みながらソファに身を沈めた。
「……なにやってんだ、早くピ・ア・ノ。そっちのも、アンタはバイオリンだったな」
「は、はいっ」
真っ赤なお顔の淑子さまが弾かれたようにサロン中央へと向かう。
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