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大きな大きな格子窓の外──。
時折舞い落ちる薄紅色の花びらは、私の奏でるこのピアノの音に合わせて散っているみたい……。
「──美春さんっ! またリズムが狂いましたわよっ!」
キンキン通る声に咎められて、私のピアノを弾く手が止まった。
我に返って窓から視線を戻すと、目の前にはやけに大きなリボンをつけたちょっぴりふくよかな鬼の顔。
「す、すみません淑子(としこ)さま。私なんだかぼんやりしてしまって……」
鬼の正体は女学校でひとつ上級の、榎本子爵令嬢、淑子さま。
彼女は諦めたようなため息をつきながら、自分も演奏していたバイオリンを肩から下ろした。
「いいえ、わたくしも言い過ぎました。急遽、風邪をひいてしまった妹の代役をお願いしたのはこちらの方ですし。
美春さんはこんな、伯爵家でのお茶会に招かれてピアノを披露する機会なんてございませんものね、わたくしは慣れているけれど。緊張するのも無理はないわ」
「え……はあ。まあ、そうですね」
曖昧に笑うと、淑子さまは私を小さな目でキッと軽く睨んだ。
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