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「りょ……さぁん……!」
声になったのは、涙交じりの名前だけ。
ごめんなさいと言いたいけれど、きっと了さんはそんな言葉を望んでいない。
「よしよし、わかればいい。ここに京なんかがいる女なんて願い下げって事だ」
ツンと私の胸元の真ん中を、了さんの指先がいたずらっぽくつつく。
「京もいいな? 負けた方が潔く身を引くってのが最初からの約束だった。俺はとっくに……」
その瞬間、了さんの手がもの凄い勢いで叩き落された。
「ぐわっ! いいい痛ってーーー!!」
「……僕の花嫁のそんな所を、そんなに気安く触らないでもらおうか」
自分も痛そうに顔をしかめ、京さんが手を振りながら冷やかに言い放った。
「京……さん……」
まだ五分咲きの桜が、涙で滲んで、ほどけて、満開に咲き誇る──。
「加減ってもんがわからねぇのか! だいたい京、てめえが全部悪い。男なら美春がどんなにガタガタ言おうがさらって、黙らせて、結果的に幸せだって言わせるくらいの気概を見せやがれ! ここまでお膳立てしてもらっときながら……!」
「世の男がみんなお前みたいに単純だと思うな! 自分の中で許せない事や、飲み込むべきと思う事が……」
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