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「……無理しやがって。底抜けのバカはお前だ、了……」
私の隣で、同じように了さんの後姿を見送りながら低い声がつぶやく。
チラと横目で彼を盗み見ると、同じくこちらを窺うような瞳と目が合った。
「美春さん、本当にいいんですか? 今なら追いかければ間に合いますよ」
そんな言い方をして、まだ私の心を探ろうとする。
だけどこんなの、もう相手になんかしてあげない。
「京さんは、私が了さんを追いかけた方がいいんですか?」
「え?」
この人の得意技、『答えたくない質問には質問を返す』をやってみた。
「いや……それはもちろん困りますが、でももし美春さんが」
「どうして困るの?」
「どうしてって……だから、好ましくはないと」
「どうして?」
「それはそうでしょう。ここまで了が……」
「…………どうして?」
「………………」
私が聞きたいのはそんな答えじゃない。
驚いたようなバツの悪いような顔をして、京さんはやっと察してくれた。
「……言わなくちゃ、ダメですか」
「ダメです」
私は一歩前に出て、京さんの正面に立った。
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