今ひとたびの恋サクラ

15/16
前へ
/256ページ
次へ
「京さん、これまで一度もはっきり言ってくれた事ないです」 「……拾って持ってるじゃないか」 「あれは文字だし、先人の言葉ですし。一度でいいんです、私は京さん自身の言葉を、京さんの声で聞きたいんです」  言葉なんて意味はないかもしれない。  苦手なのも充分承知。  でも私だって女の子、一度だけちゃんと気持ちを聞きたい。 「……わかりました。確かに、この期に及んで胸の内に秘めておくのは良くないですよね」  京さんは観念したように大きく息を吐き出して、私を真っ直ぐに見つめた。  自分でねだっておきながら、いざそうなると私の胸もドキドキと高鳴ってくる。 「だいたいなんであそこで抱き上げる必要があったんだ。美春さんも美春さんだ、無防備に抱きついたりして」 「……は?」 「それにあんな至近距離でほっぺたを掴まなくてもいいじゃないか。ちょっとつまづいたら顔がぶつかったかもしれない。どさくさに紛れてやりたい放題……!」 「ちょ、ちょっと待って。それって……」  以前にも言われたことがある、焼きもちの羅列。  愛情表現でない事もないけれど、私が聞きたかったのはそういう事じゃない。
/256ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加