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「京さん、これまで一度もはっきり言ってくれた事ないです」
「……拾って持ってるじゃないか」
「あれは文字だし、先人の言葉ですし。一度でいいんです、私は京さん自身の言葉を、京さんの声で聞きたいんです」
言葉なんて意味はないかもしれない。
苦手なのも充分承知。
でも私だって女の子、一度だけちゃんと気持ちを聞きたい。
「……わかりました。確かに、この期に及んで胸の内に秘めておくのは良くないですよね」
京さんは観念したように大きく息を吐き出して、私を真っ直ぐに見つめた。
自分でねだっておきながら、いざそうなると私の胸もドキドキと高鳴ってくる。
「だいたいなんであそこで抱き上げる必要があったんだ。美春さんも美春さんだ、無防備に抱きついたりして」
「……は?」
「それにあんな至近距離でほっぺたを掴まなくてもいいじゃないか。ちょっとつまづいたら顔がぶつかったかもしれない。どさくさに紛れてやりたい放題……!」
「ちょ、ちょっと待って。それって……」
以前にも言われたことがある、焼きもちの羅列。
愛情表現でない事もないけれど、私が聞きたかったのはそういう事じゃない。
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