エピローグ 〜そして桜たちは〜

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エピローグ 〜そして桜たちは〜

     *・゜゚・*:.。.:*.。.:*・☆・*:.。. .。.:*・゜゚・* 「いーのちー短しー♪……。恋ーせよ、乙女ー……♪」  満開の滝桜の下。  この季節になると、ついこんな流行歌を口ずさんでしまう。 「あ……私、その歌知ってますよ。お好きなんですか? 榮子さま」 「ええ、ええ……。よく一緒に歌いましたわねぇ美春さん……」 「え? は、はい。そうですね。歌いましたっけ……」  いつものように桜の下で車椅子を固定しながら、美春さんが笑ってくれる。  ああ、この人は本当に可愛らしくて、お優しい方。 「榮子さま、少し風が冷たくはありませんか? もう一つショールがありますから羽織りますか」 「いいえ。日差しが充分温かくて……今日は気分がいいわ」  膝の上には、大事な大事なわたくしの日記帳。  庭に出る時も部屋に居る時も、片時も離せない。  これを抱いていると、なせだか胸の中に優しい風が吹くから。 「そうですか……よかった。ほら、桜も今が見ごろですよ、すごく綺麗……」  そこへ、大股に裏庭の草を踏む音が聞こえてきた。  この歩き方は、若い頃の高之さんに良く似ているような気がする。 「やあ、榮子おばあさま。今日は顔色もいいですね」
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