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人懐こい笑顔で覗き込んでくる若い男性。
はて……どちらの方だったかしら。
「はるみ、ありがとう。君がヘルパーでここに通ってくれるようになってから、おばあさまはとても落ち着いているようだ」
「た、高志さん、ちょっと……!」
あたふたと美春さんが男性のシャツの袖を掴んで、桜の傍まで引っ張っていく。
「ダメよ、奥様の前では私は『みはるさん』なの! 私も榮子さまって呼んでるし。話を合わせてって、この前お願いしたのに」
「ご、ごめん。そうだった。誰か古い友達と間違えてるんだっけ」
「うん……だと思う。よく昔の話をしてくださるし。そういう時はとてもご機嫌でしっかりしてらっしゃるから……」
美春さんが声をひそめて何か話し込んでいる。
でも耳をそばだてるなんてはしたない事、わたくしはいたしませんことよ。
(……淑子さんでもあるまいし)
クスクス笑いが出てしまう。
そうそう、あの方も本当に面白くて、根は可愛らしい方ですわよね……。
「あのね。このお屋敷の元の持ち主が、そのみはるさんご夫婦だったらしいの。空き家になった時、人手に渡るのが嫌で旦那様におねだりして買ってもらったってこの前話してくれたわ」
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