エピローグ 〜そして桜たちは〜

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「へえ……こんな明治から建ってるような古い屋敷になんでこだわって住んでるのかと思ってたけど、何か思い入れがあるのかもしれないね」  美春さんと男性がこっちを見て微笑んでいる。  その懐かしい笑顔と風が心地よくて、なんだか眠くなってきてしまったわ……。 「九十近くなると、思い入れとか思い出しか残らなくなるのかな。たぶん今年、年号が昭和から平成になった事もわかってないだろう。元は華族のお姫さま、かつては夫を補佐して、三井の頭取まで務めた女傑なのに」 「あ、その旦那様の事もよく話題に上るの。政略結婚で年上女房だったけど、大恋愛に発展したのよって」 「はは、孫の僕より三井家の事情に詳しいね。確かにおばあさまがこんな風になったのは、一昨年会長が亡くなってからだ。……ねえ、はるみ。そろそろ僕のプロポーズにOKして、そんなおしどり夫婦になってみない?」  あら……、なにやら美春さんがお顔を真っ赤にしていらっしゃる。  桜の花まで色濃くなったように見えますわ。 「……紅きーくちーびるー♪……。褪ーせぬー間に……♪」 「だ、だって……無理だよ。私、たいした学歴もないし、こんな介護のお仕事をしてる普通の庶民だもの。高志さんみたいな財閥の御曹司と結婚なんてとても……」
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