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「それでも! きちんとやってもらわなくては困るんです。今日のお招きは特別……失敗できない。わたくしという、眉目秀麗、音楽のたしなみもある大和撫子が存在する事を十二分に知っていただかなくては……!」
「知っていただく? こちらの小笠原伯爵家、御当主にですか?」
私の問いになぜか丸い顔をポッと赤らめ、淑子さまは落ち着かない様子でドレスの襟元などを短い指で整え始める。
「そ、そうですわ。こちらの小笠原伯爵家と、私の父、榎本子爵はヴィジネスでも懇意な間柄ですし……。ああ、なんだか美春さんの緊張が移ってしまったよう。もうすぐわたくし達の出番ですし、お手洗いに……」
手にしたバイオリンをケースに置き、淑子さまはドレスの裾を持ち上げて部屋のドアに向かう。
確かに今日の淑子さまは、装いからしてやけに気合いが入っていた。
花嫁衣裳かと思うような白っぽいモダンなドレスに身を包み、綺麗に結い上げた髪にはドレスに合わせた白いレースのリボン。お化粧もしている様子で、白いお顔に真っ赤なおちょぼ口がちょっと可愛らしい。
一方、私はと言えば……。
(これでも披露する『さくらさくら』の曲に合わせて、桜模様の着物にしたんだけど……女学生の正式な色、海老茶の袴を合わせて)
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