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男性や年配の女性の姿もちらほら見えるけれど、それは娘に付き添ってきた親御さんのようだ。
もしかしたらここの御当主は、これからの国を支える若者を支援するといった志のある方なのかもしれない。
「またぼんやりなさって。さあ、本番ですわよ」
淑子さまの密やかな叱咤に促されて、私は開け放たれたままの観音開きのドアからサロンへと足を踏み入れた。
(わ……眩しい……!)
そこは、庭から素通しとも言えそうなガラス張りの大部屋。
着飾った紳士淑女たちが、そこかしこに据えられたモダンなソファでくつろぎながら、あるいは立ったまま飲み物を片手に笑いさざめく。
淑子さまの言う通り、私はこんな大きなお屋敷の盛大なお茶会に招待されたのは初めての事。
いざ本番となると、まるで夢の世界に迷い込んでしまったように、歩くのもふわふわとして実感がない。
でも、サロンの中央に堂々と置かれたピアノに、思わず小さく声を上げてしまった。
「あれは……もしかしてグランドピアノ?」
突上げ棒に支えられた緩やかな曲線を描く大屋根が、黒く艶やかに光っている。
「そうよ、なかなかお目にかかれるようなものではないわよね……。
ちょ、ちょっとお待ちになって! ご挨拶が先と言ったでしょう」
「え?」
吸い寄せられるようにグランドピアノに向かう私の袖を、淑子さまがギュッと掴んだ。
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