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目の前の一際大きなソファ。
そこで大勢の人々に囲まれながら、ゆったりと背を預けている壮年の紳士が、私たちを見上げて目を細めている。
もっと年配の方を想像していたけれど、どうやらこちらが小笠原伯爵のようだ。
「本日はお招き頂きましてありがとうございます。わたくし、榎本子爵が娘、淑子でございます。十七歳です」
(え、歳まで言うの?)
首を傾げる私の視界をふさぎ、淑子さまは深々とお辞儀をして尚も続ける。
「趣味は華道と読書、今日は得意とするヴァイオリンを是非伯爵様に聞いて頂きたく、学友の下級生を供に伺った次第です」
「ほう、バイオリンを。これは楽しみな事だ」
伯爵のよく通る、威風堂々としたバリトン。
その声に続いて、次はそれよりもずっと柔らかい、でもやはり低めの声が響いた。
「その後ろの方が淑子さんのご学友ですか?」
急に話が自分の事になり、私は隠れていた淑子さまの広い背中からソファを覗き込んで……絶句した。
伯爵の隣に座り、こちらを見つめる切れ長で黒目がちな瞳。
形のよい唇は最初の時のような意地悪な感じはまるでなく、穏やかに孤を描いている。
(さっきの……座敷わらしの人!)
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